ブックタイトルKentaiNEWSvol210

ページ
9/20

このページは KentaiNEWSvol210 の電子ブックに掲載されている9ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

KentaiNEWSvol210

09しかし、「筋に損傷が生じる」というイメージは、オーバートレーニングを予防するという点では悪いものではないでしょう。筋肉を「壊す」トレーニング実験でオーバートレーニングの「モデル」として利用できるものに、高強度のエキセントリック収縮(伸張性収縮)があります。例えば、最大筋力を発揮している最中の筋を、外部から無理矢理伸張することを20?50回ほど繰り返すと、直後から著しい筋力低下が起こり、その回復に2週間以上かかります。2?3日後には、血中にクレアチンキナーゼという筋線維内の酵素(筋損傷マーカー)が多量に浸出してくるため、少なくとも筋線維の細胞膜に損傷が起こっていることがわかります。したがって、このようなトレーニングを週2回の頻度で繰り返してゆくと、まさしくオーバートレーニングにおちいる可能性がありますが、それをヒトで実証することは研究倫理上難しいのが現状です。さらに、このようなトレーニングは「筋を壊すこと」が目的のようなもので、実際のトレーニングとかなり異なる点も問題です。実験的に確認できたオーバートレーニング一方、20年ほど前に私の研究室で行った長期実験で、明らかなオーバートレーニングを確認できた事例があります。その実験では、負荷を持ち上げるときに最大挙上負荷の80% (80%1RM)、負荷を下ろすときにその約1.4倍(110%1RM)の負荷がかかる電子制御式マシンを作り、8回×3セット、2回/週、を3ヶ月行いました。このような「ヘビーデューティー」タイプのトレーニングは私の好みでもありましたし、それまでの実験結果から、絶大な効果をもたらすという自信がありました。確かに、2/3ほどの被検者では、著しい筋肥大と筋力向上が起こりました。しかし、他の1/3の被検者では、真面目にトレーニングに取り組んでもらったのにもかかわらず、筋が萎縮し、筋力も低下してしまいました。この研究は、一貫した結果が得られなかったということで、論文公表に至らなかったのですが、長期的なオーバートレーニングを確認できた珍しいケースといえるでしょう。オーバートレーニングにおちいりやすい「素質」があるこの実験で、一部のヒトがオーバートレーニングにおちいってしまった原因のひとつは、その15年ほど後に行った別の研究からわかりました。その研究では、最大強度の伸張性収縮を繰り返すという、「筋を壊す」タイプのトレーニングを1回行い、その後の回復過程を調べました。同時に、被検者の遺伝子を調べ、α?アクチニン3という筋タンパク質の遺伝子(ACTN3)の違い(遺伝子多型)を調べました。その結果、日本人の約30%にみられる「XX型」という遺伝子型をもつヒトは、他の遺伝子型(RR型とRX型)をもつヒトに比べ、筋力の回復速度が遅く、血中クレアチンキナーゼ濃度の上昇の程度も大きいことがわかったのです。この結果は、ハードなトレーニングへの筋の耐性に、遺伝子の違いによる個人差があることを示唆しています。「オーバートレーニングにおちいりやすい」という遺伝的素質があるともいえます。したがって、オーバートレーニングかどうかは、トレーニング内容から一概に判断できるものではなく、個人によって異なるものと考えられます。究極のトレーニング最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり「スポーツ生理学」が本になりました。過去のケンタイニュースに掲載された原稿に加筆修正を行い、再編集されています。講談社より好評発売中です。石井直方講談社1,600円(税別)