ブックタイトルKentaiNEWSvol209

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概要

KentaiNEWSvol209

09中のすべてのタンパク質の合成は、まず遺伝子DNA上にあるタンパク質のコードがメッセンジャーRNAに写し取られることからはじまります(遺伝子の転写)。DNAには通常、ヒストンというタンパク質が結合していて転写を抑制していますが、ヒストンが「アセチル化」されることでDNAとの相互作用が弱くなり、転写が可能な状態になります。サーチュインは、細胞が「エネルギー不足」の状態になった時に、ヒストンを脱アセチル化して遺伝子の転写を抑制し、タンパク質合成という、エネルギーを多く必要とする営みを最も初期の段階で抑えると考えられます。細胞のエネルギー状態とタンパク質代謝細胞のエネルギー状態によって代謝を調節する仕組みは、まだ他にもあります。哺乳類では、低血糖が持続すると、副腎皮質から糖質コルチコイドが分泌されます。このホルモンは、筋線維をはじめとするさまざまな細胞にはたらき、タンパク質の分解を促してエネルギー源とするようにします。さらに、細胞内のグリコーゲン貯蔵量が減少したり、糖質の供給が減少したりすると、細胞内のアデノシン一リン酸(AMP)が増加します。すると、AMPキナーゼ(AMPK)という酵素が活性化し、タンパク質の合成工場であるリボソームを不活性化してタンパク質合成を抑制するとともに、タンパク質分解を促進します。結果的に、細胞のさまざまな活性が低下し、エネルギーがセーブされるわけです。新たなサルの実験結果:カロリー制限は寿命を延ばさない一方、上述のように細胞を不活性化し、身を削って生き長らえることが、高等動物にとって真に良策かどうかは疑問が残ります。実際、上記のウィスコンシン大学の実験と同様の研究が米国老化研究所(NIA)でも行われ、2012年の「ネイチャー」誌に報告されましたが、その結果は、「70%のカロリー制限食を与えても、寿命の延伸効果はなかった」という、正反対のものでした。27歳時のアカゲザルの写真を見ると、対照群の方が、カロリー制限群より明らかに太っているものの、外観上も健康そうで、まったく老けているという感じではありません。2つの研究結果の食い違いは何に起因するのでしょう。両研究とも、餌に占める栄養素の配分比は、糖質:タンパク質:脂質=57:17: 5(重量%)で、ほぼ同じでしたが、糖質のうちショ糖の占める割合がウィスコンシン大学の研究では29%、NIAの研究では4%でした。ウィスコンシン大学の研究では、活動が制約された飼育環境下で、急激に血糖の上昇する「甘い」餌を与え続けたことが、サルの健康状態を早く悪化させたのではないかと思われます。このことから、サルやヒトについては、カロリー制限より、食餌の内容の方が長寿のために重要であろうと考えられるようになっています。カロリー制限による健康状態の改善しかし、「カロリー制限が必要ない」というわけではありません。中高年のヒトを対象に、6年間の食事介入を行ったワシントン大学の研究(2008)は、1日平均1800kcalに制限した群では、対照群(1日約2700kcal)に比べ、血圧、血糖、血中脂質などが良好であったと報告しています。このように、健康状態の改善効果がある一方で、極度の低カロリー環境が長期間続くと、タンパク質分解が進行し、筋量の減少や骨粗しょう症につながる危険が生じることを考慮する必要があるでしょう。究極のトレーニング最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり「スポーツ生理学」が本になりました。過去のケンタイニュースに掲載された原稿に加筆修正を行い、再編集されています。講談社より好評発売中です。石井直方講談社1,600円(税別)