ブックタイトルKentaiNEWSvol207

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概要

KentaiNEWSvol207

「筋メモリー」と呼んでいます。アナボリック・ステロイドは筋核数を増やす男性ホルモン(テストステロン)や、その他のアナボリック・ステロイド剤が、どのような仕組みで筋肥大を助長するかについては、まだ完全には解明されていません。Sinha-Hikimら(2003)は、若齢男性にテストステロンを投与すると、筋肥大とともに筋サテライト細胞の増殖が起こることを示しました。さらに、私たちの研究グループは、マウスにテストステロンを投与すると、筋サテライト細胞の増殖を強く抑制しているミオスタチン(マイオスタチン)の合成量が減少することを報告しました(Kawada, Okuno & Ishii, 2006)。これらの研究は、アナボリック・ステロイドによる筋肥大には、少なくとも筋サテライト細胞の増殖を介した筋核数の増加が関与することを示唆しています。そして、そのことをほぼ決定的に示した研究がつい最近報告されました(Egnerら、2013)。ドーピングを止めても筋核数は減らないEgnerら(2013)は、テストステロンがほとんど分泌されないメスのマウスの皮下に2週間にわたってテストステロンのペレットを埋め込み、下腿筋の筋線維の肥大と筋核数の増加(ともに50%程度)が起こることを示しました。擬似薬のペレットを埋め込んだ群(sham:比較対照群)、テストステロン単独投与群(T)、テストステロンなしで筋に過負荷を与えた群(O)、テストステロンと筋への過負荷を与えた群(T+O)、の4群で比べると、筋肥大の程度も、筋核数の増加も、T+O>T>O>>sham(shamは肥大なし)の順になりました。過負荷単独でも筋肥大と筋核数の増加は起こりますので、これらにテストステロンは必須ではありませんが、テストステロン単独でもこれらを強く促進する効果があるといえるでしょう。さらに彼女らは、テストステロンのペレットを除去した後(血中の濃度もゼロに戻る)の筋の変化を観察しました。その結果、筋線維の太さは3週間で元のレベル(shamと同じ)にまで萎縮してしまうものの、筋核数は増加したままであること、さらに約3ヶ月後にT群とsham群に2週間の過負荷を与えると、T群の方でより著しい筋肥大が起こり、テストステロンの効果が残存していることが分かりました。これらの結果は、一度ドーピングで筋肉を肥大させると、ドーピングを止めても筋核数は減らず、その恩恵を長期にわたって受け続けられることを示唆しています。何年間ドーピングを「記憶」するのか?マウスで3ヶ月は持続する「ドーピングの記憶」が、ヒトで何年間続くのかは、現在のところ推測の域を出ません。ヒトとマウスの寿命から単純に計算すると10年以上ということになります。4年の出場停止でもまだ甘いと考えられますが、やはりヒトを対象にした実験が必要と思われます。しかし、「以前クスリを使っていたが、今は完全に止めているのでクリーン」とは言い切れないのは確かです。競技現場での検査では不十分なことは言うまでもありませんが、「10年の資格停止」といった大鉈も、一考に値するのではないでしょうか。究極のトレーニング最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり「スポーツ生理学」が本になりました。過去のケンタイニュースに掲載された原稿に加筆修正を行い、再編集されています。講談社より好評発売中です。石井直方講談社1,600円(税別)09