前回「ダイエットの基本原理を見直そう」で、体脂肪を減量するための「王道」はやはり運動で
あること、エアロビック運動には直接のエネルギー源として脂肪を代謝する(燃焼する)効果が
あり、一方レジスタンス運動には、筋量を増すことで安静時代謝を高めたり、ホルモン分泌を
刺激して脂肪の分解を促進したりする効果があることをお話ししました。
つまり、これらの両方のタイプの運動を行うのが理想的です。
私たちの研究グループでは、より効果的に体脂肪を減らすために、エアロビックとレジスタンスを
どのように組み合わせたらよいかを調べてきました。
「エアロビック運動でより効果的に脂肪を落とすには?」にも一部をご紹介しましたが、
最近その研究成果をいくつかの論文にまとめて欧米の学術誌に出版しましたので、
このテーマについて、もう少し詳しくお話ししましょう。
「教科書的」にはエアロビックから
トレーニングの教科書では、複数のタイプの運動やトレーニング種目を組み合わせる場合、
「最も重要な」ものから行うべきとされています(「プライオリティー」の原則)。
疲労していない、元気なうちに行った運動の方が、より効果が高いと考えられるからです。
したがって、「体脂肪を落とすこと」が最優先課題である場合には、脂質の代謝に最も効果的な
エアロビックをまず行い、残りの時間で筋肉を落とさないためにレジスタンスを行っておくという
のが、教科書的には正解です。
体脂肪の「分解」と「燃焼」
しかし、ここで前回のお話しを思い出してください。
体脂肪の代謝には、中性脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解されるステップと、
脂肪酸とグリセロールの代謝(いわゆる「燃焼」)という2つのステップがあり、
この2つのステップを完結する必要があります。
まず、中性脂肪の分解には、アドレナリンや成長ホルモンなどのホルモンが重要です。
これらのホルモンの分泌はレジスタンストレーニングによって強く刺激されますので、
レジスタンス→エアロビックの順に運動を行った方がよいのではないかと類推されます。
脂肪の分解を促すレジスタンス運動
実際、Ronsenら(2002)は、レジスタンス運動を行うと、その後約48時間にもわたり安静時の
エネルギー消費(安静時代謝)が高く、脂質代謝も高まった状態が持続すると報告しています。
少量の成長ホルモンを静注した場合、1時間後から中性脂肪の分解産物である遊離脂肪酸の
血中濃度が上昇し始め、その後少なくとも6時間以上持続します。
したがって、Ronsenらの実験結果は、主に成長ホルモンによって脂肪が持続的に分解され、
エネルギー源として利用されやすい状態になっているためと解釈されます。
レジスタンス→エアロビックで脂質代謝が高まった
そこで、私たちは、
1)60分間のエアロビック(強度は50%最大酸素摂取量)のみを行う[Eタイプ]
2)30分間のレジスタンス(10RM強度で行う典型的な筋肥大タイプのトレーニング)の
20分後に1)と同じエアロビックを行う[RE20タイプ]
3)同じレジスタンスの120分後に同じエアロビックを行う[RE120 タイプ]
の3通りのプログラムの効果を調べました。
その結果、エアロビック運動中の血中遊離脂肪酸濃度はRE120=RE20>E、
血中グリセロール濃度はRE20>RE120>Eとなりました。
さらに、呼気ガス分析(呼吸交換比)から計算した、エアロビック運動中の脂質代謝量(脂質の
酸化の程度)も、RE20>RE120>Eとなり、実際にレジスタンス→エアロビックの順で運動を
行うと、脂質代謝が増進することが確かめられました(Gotoら、2007)。
どのくらいのインターバルがいいか
しかし、上の結果には、予想外の面もあります。
成長ホルモンの注射では、1時間後に脂肪分解が始まり、2時間後にほぼ最大値に達しますので、
RE120が最も効果的であろうと予想したからです。
おそらく、より早く脂肪分解を刺激するアドレナリンやノルアドレナリンの効果が大きいものと
考えていますが、さらに詳細な検討が必要です。
いずれにしても、脂質代謝を高めるという観点では、レジスタンス→エアロビックの順序が
よいことは確実です。
そのインターバルについては、20分-120分の間で効果がありますが、
短い方がよいであろうというのが現時点での結論です。
順序を逆転すると成長ホルモンの分泌が起こらない
一方、順序を逆転して、エアロビック→レジスタンスにしたらどうでしょうか?
実はこの点については、より早く研究を行っていて、
エアロビック(上記と同様)→レジスタンス(上記と同様)の順に運動を行うと、
レジスタンス運動中の成長ホルモンの分泌が完全に抑えられてしまうことを
すでに報告しています(Gotoら、2005)。
この場合、その後の持続的な脂肪分解までは測定していませんが、少なくとも、
レジスタンストレーニングによる筋力強化の点では明らかにマイナスでしょう。
ウオームアップ程度では大丈夫
安全かつ効果的にレジスタンストレーニングを行うためには、10分程度、軽いエアロビックを
行ってウオームアップをする必要があります。
これでホルモン分泌が抑制されてしまっては困りものです。
しかし、心配は無用。この程度のエアロビックでは影響は皆無です。
石井直方 東京大学大学院教授 理学博士
Kentaiニュース182号(2007年4月発行)より転載